ことの起こり 1
それは、つい最近といえば最近のことだ。
この1月末のある夜のこと、横になった時、下腹部に違和感を感じた。
おなかに何かが乗っかっているような感覚。
軽い気持ちで下腹部を触ってみた私は、一瞬、凍りついた。
何か、あきらかに固いものが指先に触れた。
「これは・・・子宮筋腫が大きくなりすぎたのかも・・・。」と
私は思って、とうとう受診した方がいい時期なのかなあ、と思った。
翌朝、私は実家に電話をかけた。
母は子宮筋腫と卵巣腫瘍(境界悪性・手術だけで抗がん剤治療なし)を
経験しているので、こういう時は頼りになる。
私が状態を話すと、やはり母は「絶対に病院へ行きや!」と強く勧めてきた。
余談になるが、私は病院が嫌いだ。
小学校4年生から高校1年生まで断続的に整形外科へ通っていたせいか、
とりあえず病院というものは待ち時間が長く、診察はあっという間という
おつかれさんな場所だと思っていた。
加えて、抜歯をした際に飲んだ抗生剤で薬疹が出たせいで、
病院嫌いの薬嫌いという傾向ができあがってしまった。
が。そんな私でも、母となってはそうも言ってはいられない。
二人の娘は、ことあるごとに病院へ行く機会ができた。
特に、二女の場合は命に関わるような病にかかったゆえに、
医師にかからねばならない時はあるものだ、と偏向した思いは
ようやく中立したものへと変わってきていた。
閑話休題。
翌日H25年1月31日、私は地元の総合病院へ行っていた。
そこはかなり前に母が入院していたり、旦那さんが健康診断に
行っていたりと、私にとってはなじみのある病院である。
朝8時すぎには受付をすませ、その時点では呼び出し番号は1ケタだった。
「もしかして早いかな・・? でも産婦人科だと遅くなる可能性も
あるなあ・・。」
とぼんやり思いながら待っていると、事務の人が問診票を持ってきたので、
ゆっくりとそれに記入した。
問診票はいろいろと項目があったが、「受診のきっかけとなる今の状態」には
下腹部の違和感と、更年期がとうとうやってきたかも?といったことを
書いたら、再び事務の人が現れて「更年期質問票」なるものを持ってきた。
それを書いた後、尿検査だけなぜか先にしてくださいと言われたので
お手洗いに行ってしまうと、あとはただ待つだけの時間になってしまった。
ふと周りを見ると、さまざまな年齢層の女性がいる。
中には男性の姿もあって、今は付き添いの男性は普通にいるなあ、と思った。
まだまだ時間がかかりそうだったので「鴨川ホルモー」を読み始めると、
瞬く間に物語の世界へ引き込まれていった。
「・・・さん~。」
ふいに私の名前が呼ばれたので、慌てて本をしまって診察室へ入る。
挨拶をしながら勧められた椅子へ座ると、温和そうな医師が
問診票を見ながら、私に質問を次々とした。
尿検査の結果を見ながら
「潜血があるので、更年期の始まりかけですね。」と言い、
「あと。おなかに違和感がある、と。じゃあ、内診しましょうか。」
と言って立ちあがった。
看護師が内診室へ案内してくれ、私は下着などをとって
10数年ぶりに内診台へ上がった。
医師は下腹部を触って、「あれ! 何かありますね。」と言った。
やはり誰が触ってみてもソレはそこにあるんだな、と思っていると
「中を見ます。」とエコー検査。
・・・ううう、ひさしぶりだが、嫌なものだ。
カーテンを少し開けて画像を見せてくれるが、なにがなんだかわからない。
「子宮体がんの検査は最近しましたか?」と言われたので
「してないです。」と答えた。
「じゃ、その検査もしておきますね。」と言われたので、
「お願いします。」と軽く返事した。
が。
・・・この検査、もう想像を絶する痛さだった。
看護師が「息を吐いてくださいね~。」と言うのだが、
そんな余裕もありません・・。
子宮頸がん検診は痛くなかったので、甘く見ていた。
検査が終わった後、ちょっとよろよろになった私に、看護師が
「出血するかもしれませんので、これをお使いください。」と
ナプキンを手渡してくれた。
この時点で私はもう、いろいろと面倒な気分になっていた。
面倒というのは語弊があるかもしれない。
もう、なんでもかかってこい~! という投げやりな状態である。
診察室に戻ると、内診前より少し硬い表情の医師が言った。
「今日、これから血液検査と、MRIを撮ってきてください。
あのね、卵巣に腫瘍があります。」
と、図解した紙を見せながら医師は言った。
え? 卵巣に腫瘍ですか??
子宮筋腫ではなくて??
呆然としたまま、私は書類を持って、診察室を出た。